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HermèsとChanelは、なぜLVMHと違う戦略で勝てるのか?|「拡大」ではなく「希少性」を守る経営

  • 3 日前
  • 読了時間: 11分

はじめに

フランス企業の成功を語るとき、まず名前が挙がるのがLVMHです。LVMHが本格的に世界を席巻し始めたのは、1980年代後半から1990年代にかけてでした。特に重要だったのが、日本市場です。


当時の日本では、「海外ラグジュアリー=成功の象徴」という価値観が急速に広がり、Louis Vuittonを中心にラグジュアリーブランド市場が爆発的に拡大しました。LVMHは、その巨大需要を背景に、ラグジュアリーを“世界規模で拡張できるビジネス”へと変えていきます。


しかし、その一方で、フランスのラグジュアリー業界には、LVMHとはまったく異なる思想で成功した企業があります。それが、HermèsとChanelです。LVMHが「拡大」で勝った企業だとすれば、HermèsとChanelは「希少性」で勝った企業です。


大量出店を急がない。 大量生産をしない。 顧客を増やしすぎない。むしろ、“簡単に手に入らない状態”を維持することで、ブランド価値を高めてきました。普通の経営論とは逆のように見える戦略ですが、結果としてHermèsは世界最高レベルの利益率を維持し、Chanelは非上場ながら圧倒的なブランド力を保ち続けています。


なぜ彼らは、“あえて拡大しない”のでしょうか。この記事では、LVMHとの違いを比較しながら、HermèsとChanelが実践する「希少性の経営」を読み解いていきます。



■ LVMHは「帝国型」の成長戦略だった


まず理解すべきなのは、LVMHの強さは「規模」にあるということです。LVMHは単なるブランド企業ではありません。「ブランドを束ねる仕組み」そのものが強みです。


LVMHの特徴

  • 有力ブランドを買収する

  • 世界中へ大量展開する

  • マーケティングを巨大化する

  • サプライチェーンを統合する

  • 富裕層市場をグローバルに押さえる

つまり、LVMHは“ラグジュアリーのプラットフォーム企業”なのです。ブランド単体ではなく、「グループ全体」で勝つ構造を作った。これがベルナール・アルノー最大の発明でした。


実際、LVMHはブランドを増やすほど強くなる構造を持っています。

  • 店舗網を共有できる

  • 広告力を集中できる

  • 人材を横断配置できる

  • 不況時のリスク分散ができる


つまり、「規模」が競争力になる世界です。しかし、このモデルには一つ弱点があります。それは、規模が大きくなるほど“特別感”が薄れやすいことです。


ここで、HermèsやChanelは逆方向へ進みました。


ラグジュアリー業界の勢力図 ©️Allo France Jp
ラグジュアリー業界の勢力図 2026 ©️Allo France Jp

■ Hermèsは「売らない」ことで価値を高めた


Hermès最大の特徴は、「需要に対して供給を増やさない」ことです。普通の企業なら、人気商品が売れれば生産を増やします。しかしHermèsは違います。むしろ、簡単には買えない状態を維持する。これがブランド価値を守る核心戦略です。



バーキンは“商品”ではなく“選ばれた体験”


象徴的なのがBirkinです。Birkinは、お金があればすぐ買える商品ではありません。店舗へ行っても在庫は見せてもらえない。 顧客履歴が重要。 長期的な関係性が必要。つまり、Hermèsは「商品を売っている」のではなく、“選ばれる体験”を売っているのです。この構造が重要です。


普通のブランドは、顧客が商品を選びます。しかしHermèsでは、ブランド側が顧客を選ぶ側に回る。この瞬間、力関係が逆転します。そして人は、「誰でも買えるもの」より「限られた人しか手に入らないもの」に強く惹かれます。希少性は、最大のマーケティングなのです。


■ Hermèsはなぜ大量生産しないのか?


理由はシンプルです。

大量生産すると、ブランドが壊れるからです。

Hermèsにとって重要なのは、短期売上ではありません。

最優先なのは、「100年後も価値が落ちないこと」です。そのため、Hermèsは極端なまでに供給を制御しています。



職人中心の生産構造


Hermèsでは、一人の職人が一つのバッグを最後まで担当する文化があります。工場型の分業ではありません。つまり、生産量を急激に増やせない構造になっている。しかし、それこそが価値の源泉です。「誰でも大量に作れるもの」ではなく、「限られた熟練者しか作れないもの」にすることで、ブランドの神聖性を維持しているのです。


ここが、LVMH型との大きな違いです。LVMHは“拡張性”を重視する。 Hermèsは“不可逆的な価値”を重視する。同じラグジュアリーでも、思想がまったく違うのです。


エルメス職人アトリエ
エルメス職人アトリエ

■ Chanelは「世界観」を絶対に崩さない


Hermèsが「供給制御」で希少性を守る企業なら、Chanelは「世界観の統制」で価値を守る企業です。Chanelの強さは、単なる高級ブランドではなく、「Chanelらしさ」が極めて一貫していること

にあります。


Chanelは“流行”を追いすぎない


多くのブランドは、トレンドに合わせて変化します。しかしChanelは違います。

  • ツイード

  • モノトーン

  • キルティング

  • チェーン

  • カメリア(花のモチーフ)

  • エレガンス

  • 女性の自立


この核をほとんど崩さない。つまりChanelは、毎年“新しいブランド”になるのではなく、

「永遠にChanelであり続ける」ことを優先しているのです。これは非常に難しい戦略です。変わらなければ古く見える。 しかし変わりすぎればブランドが壊れる。Chanelは、この絶妙なバランスを保ち続けています。


シャネルの世界観 フランスビジネス戦略
シャネルの世界観

■ なぜHermèsとChanelは非上場的な経営を好むのか


HermèsもChanelも、短期利益を最優先にしていません。

なぜなら、ラグジュアリー最大の敵は「短期最適化」だからです。

短期利益を追うと、企業は必ずこうなります。

  • 店舗を増やす

  • 生産量を増やす

  • 値下げをする

  • 顧客数を追う

  • トレンドへ過剰適応する

しかし、これを続けると“特別感”が消えていきます。


HermèsやChanelは、それを理解しています。だから彼らは、「売上最大化」より「ブランド神話の維持」を優先するのです。これは普通の企業には真似できません。なぜなら、多くの企業は四半期ごとの成長を求められるからです。しかしラグジュアリーの本質は、短期成長ではなく“時間”にあります。100年後も欲しがられるか。彼らは、その視点で経営しているのです。


■ 日本企業がHermès・Chanel・LVMHから学べること


この話は、単なるラグジュアリービジネス論ではありません。むしろ、日本企業にとって極めて重要なヒントがあります。なぜなら、日本にも本来、世界で戦える文化・職人技・美意識が数多く存在するからです。


しかし、日本企業は高品質・高精度を追求する中で、その価値の伝え方やブランド化に十分なリソースを割けていないケースもあります。

例えば

  • 品質や機能性を中心に訴求する

  • 市場拡大に合わせて標準化を進める

  • 海外向けに分かりやすさを重視する

  • 短期的な成果指標を重視しやすい

  • 技術力の高さを前面に出す


これでは、価格競争に巻き込まれてしまいます。一方、HermèsやChanelは逆です。

  • 供給を絞る

  • 世界観を守る

  • 非効率を残す

  • 顧客を選ぶ

  • 長期価値を優先する


つまり、“売上最大化”より“価値最大化”を重視しているのです。

これは、日本の伝統産業にも大きなヒントがあります。


例えば

  • 日本酒

  • 工芸品

  • 和菓子

  • 包丁

  • 陶器

  • 老舗旅館

  • 地方ブランド


こうした分野は、本来「安く大量販売する」より、「希少性を守る」方が強い可能性があります。実際、世界の富裕層市場では、“本物の文化”への需要が急速に高まっています。つまり日本企業は、単なる輸出ではなく、「文化そのものをブランド化する」という視点が重要なのです。


■ フランス進出する日本企業にとって重要な視点


私自身、フランス市場や欧州ビジネスを見ていて強く感じるのは、フランスでは“価格”より“思想”が見られているということです。


フランスでは、

  • なぜこのブランドが存在するのか

  • どんな歴史があるのか

  • どんな哲学を持っているのか

  • 何を守ろうとしているのか


こうした「背景」が非常に重要視されます。つまり、単に“良い商品”を持っていくだけでは不十分です。むしろ、「どんな価値観を持つ企業なのか」が問われる。これは日本企業にとって非常に重要です。日本企業は品質では世界トップクラスです。しかし、ブランドストーリーや思想の言語化が弱いケースが多い。HermèsやChanelは、単に商品を売っているのではありません。“価値観”を売っているのです。


だからこそ、フランス進出を考える日本企業は、

  • 世界観

  • ストーリー

  • 美意識

  • 哲学

  • 歴史

  • なぜ存在するのか

を明確にする必要があります。特に、富裕層市場・高付加価値市場を狙うなら、この視点は極めて重要になります。


■ 私が伝えたいこと


私はフランス・欧州ビジネスを実際に現地で見ながら、日本企業や起業家の海外展開について研究・発信を続けています。その中で強く感じるのは、フランス企業は単に「高級ブランドを作るのが上手い」のではない、ということです。本当に強いのは、「価値を守る構造」

を理解していることです。そしてこれは、日本企業にも本来ある強みです。


日本には、世界に誇れる文化・職人技・繊細な美意識があります。しかし、それを十分にブランド化できていないケースも少なくありません。だから私は、フランス企業の成功構造を分析しながら、日本企業が世界市場でどう戦えるのかを発信しています。


もし、

  • フランス進出

  • 欧州ビジネス

  • 高付加価値ブランド戦略

  • 富裕層市場向け戦略

  • 日本ブランドの海外展開

に関心がある方は、ぜひ他の記事もご覧ください。今後も、現地視点で「なぜフランス企業は強いのか」を分析していきます。


パリでの出店やブランド展開を検討されている方へ。私は現地でのビジネス支援を通して、多くの成功事例と失敗事例を見てきました。フランス ビジネス 成功の構造を理解することで、どの市場でどのように戦うべきかが明確になります。単なる物件紹介やコンサルではなく、 “勝てる設計”からサポートしています。ご相談はお気軽にご連絡ください。


■ フランス企業は「職人」をコストではなく“価値の源泉”として扱う


もう一つ、LVMH・Hermès・Chanelに共通している重要な点があります。それは、「職人」の扱い方です。多くの企業では、職人技や製造工程は“裏側”として扱われます。つまり、効率化の対象になりやすい。しかしフランスのラグジュアリー企業は逆です。彼らは、

「職人そのものがブランド価値である」ことを理解しています。例えばLVMHは、この見せ方が非常に上手いです。


Louis Vuittonの職人。 Diorのアトリエ。 香水を作る調香師。 シャンパーニュのメゾン。単に商品を並べるのではなく、“誰が、どう作っているか”を徹底的にストーリー化しています。しかも重要なのは、単なる演出ではないことです。

  • 何代も続く職人

  • 長年受け継がれる技術

  • 地域に根差した工房

  • 歴史ある素材文化


こうした「積み重ね」に本気で価値を置いている。そして、その背景を広報・映像・店舗体験・イベントを通じて、エンドユーザーへ丁寧に伝える。つまり彼らは、「商品」ではなく、“作られる過程そのもの”をブランド化しているのです。これは非常に重要です。

なぜなら、現代では“モノ”だけでは差別化できないからです。


パリのアトリエ視察 職人 フランスビジネス進出
パリのアトリエ視察

品質だけなら、世界中で良いものが作れる。しかし、

  • 誰が作ったのか

  • どんな歴史があるのか

  • どんな哲学で作られているのか

  • どんな文化を背負っているのか


ここまで含めて語れる企業は少ないです。LVMHは、その「物語化」が極めて上手いのです。そしてHermèsやChanelもまた、職人・アトリエ・伝統技術を単なる製造部門としてではなく、“ブランド神話の一部”として扱っています。これは、日本企業にも非常に大きなヒントがあります。


日本には、本来世界トップレベルの職人技があります。しかし日本では、優れた職人技や品質が“当然のもの”として社内で共有されているため、その価値を外部へ物語として発信する発想が相対的に弱いケースがあります。


本来は、

  • 作り手

  • 歴史

  • 地域性

  • 継承

  • 技術

  • 美意識


こそが、世界市場では強力なブランド資産になるのです。フランス企業は、それを理解した上で、徹底的に「見せる」。ここに、フランス・ラグジュアリーの本当の強さがあります。


日本の職人の工房視察 フランスビジネス展開
日本の職人の工房視察

■ フランスが強い理由は「ブランドを文化として扱う」から


ここが最も重要なポイントかもしれません。フランス企業は、ブランドを単なる商品として扱っていません。「文化資産」として扱っています。だから、利益だけで判断しない。

  • 歴史

  • 職人技

  • 美意識

  • 世界観

  • 物語

  • 空気感


こうした“数値化できない価値”を、極端なほど大切にし、結果として、それが巨大な価格競争力になります。安売りしなくても売れる。 広告を大量投下しなくても憧れられる。なぜなら、彼らが売っているのは商品ではなく、「文化そのもの」だからです。


これは日本企業にも大きな示唆があります。日本にも、本来は世界に誇れる文化や職人技があります。しかし、多くの企業はそれを“効率化”してしまう。フランス企業は逆です。むしろ非効率を守る。なぜなら、その非効率こそが、他社に真似できない価値になるからです。


■ まとめ|LVMHは「拡大」で勝ち、HermèsとChanelは「希少性」で勝った


LVMH、Hermès、Chanel、どれも世界最高峰のラグジュアリー企業ですが、成功の構造はまったく違います。


LVMH

  • 規模

  • 買収

  • グローバル展開

  • 統合力

  • プラットフォーム化


Hermès

  • 希少性

  • 供給制御

  • 職人主義

  • 顧客選別

  • 長期価値


Chanel

  • 世界観統制

  • 美意識の一貫性

  • 神話性

  • ブランド文化

  • 永続性


つまり、フランスが強い理由は単純な“高級ブランド”ではありません。「価値を守る経営」を理解していることです。大量化ではなく、特別化。効率ではなく、神話。それこそが、フランス・ラグジュアリーの本質なのかもしれません。


■ フランス進出・ブランド戦略のご相談について


私はフランス・欧州ビジネスの現地視点をもとに、日本企業・ブランドの海外展開や高付加価値戦略について発信・サポートを行っています。特に、フランス進出、欧州市場向けブランド構築、富裕層向け戦略、日本文化の海外発信に関心がある方は、お気軽にご相談ください。「日本の価値を、世界市場でどう伝えるか」——現地視点でサポートしています。


⭐︎筆者について


Allofrancejp 代表 萩野アリサ

イギリス留学後、就職を機にパリへ移住。現在はパリを拠点に、日本企業のフランス進出サポートや展示会、視察同行、駐在員の住居探しサポート・生活セットアップなど、現地サポートサービスを提供しています。→会社概要は、こちらから。


フランスビジネスコンサルティング会社Allo France Jp 代表

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